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東京地方裁判所 昭和46年(行ク)51号 決定

東京都港区芝公園八号地の二総評会館内

申立人 日本労働組合総評議会

右代表者議長 市川誠

右代理人弁護士 佐伯静治

〈ほか四六名〉

東京都千代田区霞が関一の一一

相手方 東京都公安委員会

右代表者委員長 阿部賢一

右指定代理人 宮脇磊介

〈ほか一名〉

右代理人弁護士 沢田竹治郎

〈ほか六名〉

申立人は、当庁昭和四六年(行ウ)第二一二号デモ進路変更許可処分取消しの訴えを提起し、あわせて右進路変更処分の効力停止を求めたので、当裁判所は、相手方の意見をきいたうえ、次のとおり決定する。

主文

申立人の昭和四六年一一月六日付集会・集団示威運動許可申請に対し、相手方が同月九日付でした許可に付された条件のうち、「公共の秩序を保持するため、申請にかかる集団示威運動の進路のうちAコース(国会)については次のとおり変更する。代々木公園B地区―五輪橋―表参道交差点―神宮前交差点左―青山一丁目交差点―赤坂郵便局前右―防衛庁前―六本木交差点左―溜池交差点左―山王下交差点―赤坂見付交差点右―平河町交差点―隼町交差点左―報知新聞社前(解散地)」の部分の効力を停止する。

申立費用は相手方の負担とする。

理由

一  本件申立ての趣旨および理由は別紙(一)記載のとおりであり、これに対する相手方の意見は別紙(二)記載のとおりである。

二  疎明によれば、申立人は、中立労働組合連絡会議、東京地方労働組合評議会、東京中立労働組合連絡会議の三団体と共催で、沖繩返還協定反対、全面返還要求、日中国交回復即時実現、安保条約廃棄、佐藤内閣打倒、国会解散要求、沖繩ゼネスト連帯等を国民に訴えるため、昭和四六年一一月一〇日午後六時より代々木公園B地区で集会を開催し、その終了後同日午後七時ごろからA、B、Cの三コースに分れて集団示威運動を行なうべく、同年一一月六日、東京都条例第四四号(集会、集団行進および集団示威運動に関する条例)一条の規定に基づき、相手方に対し許可を申請したところ、相手方は、同月九日、右集団示威運動のうちBコース(参加予定人員約二万人)とCコース(同約三万人)については申請どおりの進路でこれを許可したが、Aコース(同約一万人)については、「会場―五輪橋―表参道―神宮前右折(左折の誤記と認められる。)―青山一丁目―赤坂郵便局前右折―防衛庁―六本木―溜池―三年町左―首相官邸前―衆院―参院―消防会館(隼町)―報知新聞社前流れ解散」という申請の進路を前記主文表示のとおり変更したうえこれを許可したことが認められる。

右の事実によると、右進路変更処分により申立人が回復困難な損害を避けるため緊急の必要があることは、憲法の保障する表現の自由の一としての集団示威運動の本質に照らして明らかである。

三  相手方は、過激派集団の暴力行為が激化している現在の時期に国会周辺において多人数が集団示威運動を行なうことは大きな混乱のもとであり、国会審議の妨害になるので、前記進路変更処分の効力停止は公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあると主張する。

しかし、疎明によれば、本件集団示威運動に参加する前記各団体および傘下の組合ないし組合員は、従来も国会周辺あるいは都内各所で何回となく集団示威運動を行なったが、申立人の青年対策部等が主催したときに参加者の一部に許可条件に違反する者がいて、警察の規制を受けたことがあるという程度で、他はいずれもおおむね平穏に終始し、集団的に暴力行為に出たようなことはなく、本件においても混乱防止のために他の団体または個人を参加させないこととしていることならびに本件集団示威運動については秩序維持および危害防止のための条件として行進隊形、行進方法、携帯品についてもそれぞれ制限が定められていることが認められるのであって、これらの点からすれば、国会周辺において申立人らの集団示威運動が行なわれたとしても、その集団の内部から、国会周辺の静穏を不当にみだしたり、あるいは国会の審議に支障をきたすような行為が行なわれるおそれがあるものとは認めがたい。

また、近時、一部の学生等を中心とする過激派集団が各所でゲリラ的攻撃や爆発物の使用により激しい暴力行為を繰りかえしていることは公知の事実であり、疎明によると、これらの過激派集団は、沖繩返還協定が国会で審議され革新団体の反対運動が高まる時期をねらって、同協定批准阻止のための武装闘争の展開を叫び、その機関紙やビラ等により、本件集団示威運動の当日である一一月一〇日を最初のやま場として国会撃破・首相官邸占拠・首都制圧等を呼号するとともに、右一一月一〇日には都内数箇所で集会や集団示威運動を行なうことを計画していることが認められる。したがって、国会周辺において本件集団示威運動が行なわれた場合、右過激派集団がこれに隠れ、あるいはこれを利用して混乱をひきおこすということも一応考えられないではないが、本件にあらわれた資料によってみるかぎり、それはいまだ、抽象的な可能性にとどまり、本件集団示威運動の機会に右過激派集団が国会またはその周辺を攻撃するおそれのあることを具体的に認めるに足りる疎明はない(前記機関紙やビラの記載が現実的、具体的な行動目標を示したものとは即断しがたい)。もとより国権の最高機関として国政を審議する国会の周辺は静穏な環境を維持することが必要であり、その点では過激派集団の跳梁する余地を少しでもすくなくすることが望ましいことはいうまでもない。しかし、他方、かかる集団とはかかわりのない一般国民の表現の自由もまた十分尊重しなければならないのであって、法令上国会周辺における集団行動がとくに制限されていない現在においては、前記のように抽象的に混乱の可能性がありうるというだけで、ただちに同所における一般の集団行動を全面的に禁止することは相当でない。

以上を要するに、本件の資料を精査しても、前記進路変更処分の効力を停止することによって、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるものと認めることはできない。

四、してみると、申立人の本件申立ては理由があるから、これを認容することとし、民訴法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 内藤正久 裁判官 佐藤繁)

〈以下省略〉

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